杉流馬締と宇和島拓哉のTwitter

杉流馬締が官能小説を、宇和島拓哉がラノベやノベライズを書きます。

アイカツ! 最終話Cパート

2013年1月31日に、あおい姐さんの誕生日用に書いたものです。

(当時はまだ最終話が放送されていませんでした)

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「アイ、カツ、アイ、カツ」
「いちご、残りあと一キロよ。頑張って!」
「アイ! カツ! アイ! カツ! アイ! カツ!」

 ペースを速めるいちごに合わせて、自転車のペダルをくるくると回す。二人の口から白い吐息が漏れる。冷たい風が頬を刺す。

 ふと横を見れば、大人らしい顔つきになったいちごがいる。そっか、あれからもう五年半も経ったんだ。

 

 私といちごがアイドル養成学校であるスターライト学園に入学したのは五年前の春。元々アイドル全般にとても興味があった私、トップアイドル・神崎美月ちゃんのライブを見て、アイドルに目覚めたいちご。

 そんな二人に編入試験の知らせが舞い込んできて、受験することを決心。特訓の末に高倍率の試験を勝ち抜き、見事合格! 二人で一緒にアイドルの世界へ足を踏み入れた……。

 というのも今は昔。いちごはこうしてトップアイドル・星宮いちご、そして私はそのチーフマネージャー兼トータルプロデューサー兼アイドルプロダクション社長として忙しい日々を送っているわけ。

「いちごちゃーん! そろそろ本番!」
「はーい!」

 もちろんトントン拍子にここまで来られたわけじゃない。アイドルを全く知らなかったいちご。アイドルを知りすぎていた私。

 その種類はちがうにせよ、お互いの苦労は計りしれないものがあったはず。悩む暇なんてなかったけど、それでも毎日が厳しくて、泣き出しそうになる時も何度だってあった。

「それで私、ガチガチに緊張しちゃって。イケナイコンビの目の前でお茶をこぼしそうになっちゃったんですよ」

「 HAHAHA ! ちょっと抜けてるスター宮らしいエピソードだ!」

「もうっ、からかわないでくださいよ~」

 

 毎朝五キロのランニング。栄養士顔負けのカロリー制限。授業中に居眠りや考え事をしたら厳しいペナルティ。アイドル関係の書籍や雑誌は買えるだけ買い込んで情報収集。

 娯楽にさえ実用を求め、およそ趣味らしい趣味は一切禁止。親族はもちろん、ご近所や知り合いの知り合いのそのまた知り合いにまでコネクションを作る。アイドルに憧れてアイドルになりたくてアイドルを目指して、私はアイドルになった。

 

 それでも私は敵わなかった。星宮いちごにはまったく敵わなかった。本当の『アイドル』になれたのはいちご。身も心も青春も、全てを投げ打って臨んだアイドルカツドウ。

 私からアイドルを取ったら何も残らなくなるほどの覚悟で走り続けたアイドルカツドウ。もちろん、いちごとだって仲良しこよしでアイドルをやろうだなんて考えなかった。私は本気でアイドルカツドウをしたんだ。

 

「あおいー。三曲目と四曲目の演出、どう考えたらいいかなぁ?」
「そうねぇ。その二曲は夢を叶えた女の子の気持ちを歌った曲なんだから、爽やかに、でも暗い気持ちも明るい気持ちも混ぜあわせた感じで組み合わせていけばいいんじゃないかしら」
「そっか! ありがとうあおい!」
 ――悔しかった。こんなに頑張っても、どんなに頑張ってもだめなのか。どうして私じゃないんだ、って。悔しくて悔しくて、でもそう考えてしまう自分が情けなくて。

 せめていちごの前ではいつもと同じ笑顔でいようとしたのに、ふっといろんな感情が湧きあがってきて、わっと泣いてしまったこともあった。
「こののり弁、美味しい」
「でしょっ! お母さんと私で『いつもがんばってくれてるあおいちゃんのために』って作ったんだよ!」

 

 でもやっぱり、そうやって私が頑張り続けられたのもいちごのおかげなんだと思う。いつもそばにいて、いつも明るい笑顔を見せてくれた。悩んだ時だっていつも前向きで、いつも私を導いてくれる。いちごはそんな存在だった。
 『大切なものはすぐそばにある』とよく言われるけれど、どうして私はそんなことにも気付けなかったんだろう。それほどいちごが大切なものだったのかな。

「ふふっ、そうなんだ。とっても美味しかったわ」
「よかった! これで明日のリハもがんばれるかな?」
「そうね、きっと頑張れるわ。ありがとう、いちご」

 

 だから私は、大切なものを大切にしようと思った。
 スターライト学園卒業と同時に、既にかなりのレベルのアイドルとして活躍していたいちごを引っ張り、アイドルプロダクションを設立。

 学校法人としての性格上、行いにくかったサポートやプロデュースを惜しみなく実行するためだ。世界中を飛び回り有能な人材を招集。最先端のアイカツシステムを導入し、ライブ演出の総合的なレベルを向上。産官学の連携を図り、アイドルの教育性や医療的価値を研究。社会的認知や地位を確立。

 さまざまな企業と提携し、誰でも手軽にライブを視聴できる環境を整備。人々の生活や人生の中へアイドルを組み込み、かつアイドルを憧れの存在とすべく私は奔走した。

 

「あおい、もしかして疲れてる?」
「えっ!? 全然そんなことないわよ。ほらね、元気元気!」
「嘘。私わかるもん」

 そうしていちごはトップアイドルになった。ううん、いちごはそうしたからなったんじゃない、なるべくしてなったんだと思う。だっていちごからはアイドルの匂いがしたんだもの。

 その匂いを力に変えたのはいちご自身の努力。私はそれの手助けをしただけ。

「……そうね、いちごには嘘つけないものね。うん、確かにちょっとだるだるブルーかな」
「やっぱり。じゃあ今日は一緒に寝よ!」
「ふふっ、わかったわ。ありがとういちご」

 もう決めたはずなのに、行く先を悩んで悩んで立ち止まりそうになる日もあった。実を言うと、今でも悩んでる。これが本当に私のやるべきことなのか、これで本当に私はいいのかって。

 

 でも、いちごを見ているとなんだか、これでいいんだと思えてくる。だって、それが私の――
「うぅ、あおい~」
「どうしたの? 体調悪いの? って、なんだ寝言か」
「むにゃむにゃ……あおい……いつもありがとう」
 そう、答えなんだから!