杉流馬締と宇和島拓哉のTwitter

杉流馬締が官能小説を、宇和島拓哉がラノベやノベライズを書きます。

スパスパ☆リラックス♪

霧矢あおいさんお誕生日おめでとうございます。

1月31日に間に合わなくてごめんなさい。

あおいちゃんと蘭ちゃんが温泉に入って野球をする謎SSです。

 

(約7200文字)

宇和島拓哉

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 アイカツ!、始まります! フフッヒ♪


 ピピピピ、ピピピピ。
 ぼんやりとした意識を、目覚まし時計が覚ましてくれる。
 カーテンの隙間から日の光が差し込む、朝の六時三十分。スターライト学園の朝はいつもさわやかだ。
 私は体を起こして、大きく伸びをした。
「おはよう」
 って、少し前なら言ってたんだけど。
 いちごがアメリカへ旅立ってから半年。私は一人、この部屋で寝起きしている。
 寂しくないと言えば嘘になるけど、でも、一回りも二回りも大きくなって帰ってくるいちごの隣に立てるよう、私もがんばらなくっちゃ。
 ……物理的な意味で「大きくなって」たらどうしよう。いちご、食べるの大好きだし。

 食堂でクラブハウスサンドとミニサラダ、そして青汁牛乳を飲む。
 最近『食育』ってよく言われてるけど、朝の食事はとても大切。夕食から十二時間くらい経ってるから、体はもちろん、頭もエネルギー不足になってる。そこにしっかり喝を入れて、体の芯から目覚めさせるの。
 ちなみにこの朝食は、脂質、糖質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素がバランスよく含まれた完璧なメニューなの!
 健康はアイカツの基本だもんね。
「おはよ」
「おはよう!」
 蘭が向かいの席にやってきた。二人とも忙しくはあるけど、朝に余裕のある時はこうして一緒にご飯を食べている。
 蘭はもちろん和食のメニュー。小盛りのご飯に、アジの開き。大根とわかめの味噌汁(これは日替わりなの)に、白菜の漬物。あと、トマトまるごと一個!
 ちなみに、蘭が食べる魚の骨を取るのは私の仕事。蘭、骨を取るのが苦手なの。
「昨日はよく眠れた?」
「いいや、あんまり」
 蘭がトマトを一口食べたままぼんやりしていたから、少し気になってしまった。
「悪い夢でも見たの?」
「あぁ。おとめがえびぽんのエビを、サクサクのフライにして食べてしまってな」
「あらら」
「天ぷらじゃなくてフライだぞ、フライ……」
「そっち!?」
 えびぽんのエビは天ぷらなところがかわいい、という意外な豆知識を蓄えていると、アイカツフォンの通知音が鳴った。
 毎朝配信されるオーディション情報が更新されたみたい。
「蘭、今日の予定は?」
「特にない。オーディションのチェックでもしようかと思ってたところだ」
「そうなんだ。実は私も」
 二人で最新の情報をチェックする。アイカツはカードが命だけど、情報も命。鮮度のいい情報を手に入れられれば、それだけいい対策も打てる。オーディションにも歌やダンスのレッスンはもちろん、さまざまな知識をため込んでおく必要があるから、こういうのは早いほうがいい。
「モデル系だと……今日はめぼしいものがないな」
「あっ、こんなのはどう?」
「どれどれ。温泉旅館のイメージアイドル、か」
 栃木県の奥鬼怒温泉郷の協会が、九つある温泉旅館それぞれにイメージアイドルを募集しているらしい。
 和風なものが好きな蘭には、ぴったりのお仕事かも。
「温泉に浸かれるかもね」
「ふふ、そうだな。受けてみるか」


「アイ! カツ! アイ! カツ!」
 二人でそれぞれオーディションの申し込みをしたあと、早速トレーニングに入った。
 私は二週間くらい先だけど、蘭はあと五日。ちょっと急ぎ足で仕上げなくちゃ。
「温泉旅館のオーディションって、どういうことするんだろうね」
「仕事の内容は宣伝動画を撮ったり、デパートの物産展で売り子をしたり、トークショーをしたりと書いてあるけど……あっ、オーディション要項も書いてあった」
「どんな感じ?」
「……野球をするらしい」
「野球!?」
「合格枠がちょうど九人だから、勝ったチームをそのまま合格にするって」
「あはは、斬新。それじゃあ練習しよっか」

「みんなー! 締まっていこー! なのです♡」
「おとめさま、キャッチャーマスクがお似合いですわ♪」
「私野球やったことないんだけど、大丈夫かなぁ」
 野球をするには人数が必要。ということで校内放送でメンバーを募ってみたら、みんなが集まってくれた。
「……なんでいきなり試合なんだ?」
「ふふふ。実践的な方が役立つし、楽しくできるでしょ?」
「それはそうだが」
 おとめちゃんはキャッチャー、さくらちゃんはセカンド。しおんちゃんがファーストで、右方向への内野ゴロは完璧。
「どーして吸血鬼がレフトなのよ~~!」
 ユリカ様はレフト。
 センターはSpLasH!の立花ミシェルちゃんで、ライトは同じくSpLasH!の氷室朝美ちゃん。
「Alright♪ 本場アメリカの守備力を見せちゃうよ!」
 かえでちゃんはアメリカでも野球をやっていたということで、重要な守備位置であるサード。
 ショートは謎の黒魔術パワーを信じて、クラスメイトの黒澤ミチルちゃん。
 そしてピッチャーは蘭。百六十センチ近い長身から放たれるストレートは、それだけで武器になるはず。
 ちなみに監督は私、霧矢あおい。さまざまなアイドルの癖を研究した『IDアイカツ』で、このゲーム、絶対に勝ってみせる!
「プレイボールだぜ! Yeah!!」
 まずは蘭の緊張をほぐすために、投げやすいコースへ導くようにおとめちゃんに言っておいた。最初は外角低めへ外すよう……
「ユリカたーん! バック! バックなのですー!」
 って、ど真ん中へ投げさせたうえに、見事に打たれたー!
「『ただ立ってればいいから』って聞いたのに、どうして私のところへボールが来るのかしら~!?」
 でもそこは、運動神経のいいユリカちゃんが難なくキャッチ。
 これでワンナウト。ふぅ、穏やかじゃない展開だった。
 そのあとはニ者凡退で攻守交代。おとめちゃんには次の守備までき~っちりと『キャッチャーの極意 ダイジェスト版』を読んでもらうとして、さぁ、攻撃だ!
《一番、セカンド、北大路さくら》
「がんばりますわ!」
 さくらちゃんがヘルメットを直しながら、バッターボックスに入る。
「さくらたーん! ふぁいとなのですー!」
「さくらー! 気負わずにね!」
 さくらちゃんにはボールをよく見るように言っておいた。目を慣らさせなくちゃ。
 ピッチャーが第一球を投げる。
「ストライク!」
 よし、よく見た。次は甘い球が来たら、思い切って振ってほしい。
「ストライク! ツー!」
 ……あれ? 今ど真ん中だったよね?
「ストライク! バッターアウトだぜ!」
 さくらちゃんがいつものニコニコとした笑顔でベンチに戻ってくる。
「さくらちゃん、どうして振らなかったの!?」
「ボールをよく見よ、とのご指示でしたので……」
「そういう意味じゃない~! けど、私の指示があいまいだったかも。ごめんね」
 そうだった……さくらちゃんは素直すぎるから、細部まできちんと伝えるべきだったんだ。これは私の失敗。
≪二番、センター、立花ミシェル≫
「いっくよ~!」
 次はSpLasH!のミシェルちゃん。彼女は運動神経がいいし、ブンブン振ってくれるはず!
「ストライク! バッターアウト!」
 ブンブン三振してくれた。まずい、これでツーアウト。
≪三番、サード、一ノ瀬かえで≫
「OK! 私の出番だね!」
 さてと、かえでちゃんがバッターボックスに入って……初球打ち! 左中間!
 レフトとセンターがあわててボールを取りに行ったけど、かえでちゃんはもう二塁に。すごい!
「Yeah!」
 かえでちゃんがかわいくガッツポーズ。野球経験があるとはいえ、さすがスーパーアイドルだわ。
≪四番、キャッチャー、有栖川おとめ≫
「おとめさまー! がんばってくださいませー!」
「はいです~!」
 おとめちゃんがバットを構える。
 彼女は小柄だし体力もないけど、緊張には強い。それはステージを見れば分かるし、今まで一緒に過ごしてきてそれがたくさん伝わってきた。だから、今日もきっとやってくれるはず。
「ボールツー!」
 カウントノーツー。ツーアウトだけどストライクはないし、得点圏にかえでちゃんがいる。ここは思い切って振ってもらおう。
「タイム! おとめちゃん、次はきっといい球が来るはず。それを狙って振っていって」
「わかりました!」
 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、おとめちゃんがバッターボックスへ入っていく。調子がいいみたい、これは期待できる。
「いくですよ~!」
 と、おとめちゃんが大きくバットを振ってみせた瞬間、
「わあっ!」
 ヘルメットがぐるりと回って、おとめちゃんの視界を覆ってしまった! ああ! おとめちゃんは小顔だからヘルメットの大きさが合ってなかったんだ!
 そこをチャンスとばかりに、ピッチャーがボールを投げる。まずい!
「もーう、えいなのです~!」
 カキーン!
「センター下がってーー!」
 だけど、焦ったおとめちゃんがやみくもに振ったバットが、なんとボールに当たった! しかもそれはグングン伸びて……
「ホームランだぜ! Yeah!」
「わあ、なのです……!」
「おとめちゃんすごい!」
 一気にフェンスの向こう側へ!
 かえでちゃんとおとめちゃんがホームイン。初回に二点先制!
「Foo! おとめのおかげで還ってこられたよ!」
「どういたしましてなのです~♪」
≪五番、ファースト、神谷しおん≫
 続くしおんちゃんはツースリーまで粘ったけど、あえなく凡退。
 でも、カットに続くカットで、ボールを多く投げさせたのはいい仕事だった。

 そのあとは投手戦。後半まで動きもなく、この勢いのまま勝てると思っていたけど……事件は八回に起きた。
 バシッ!
「うッ……!」
「蘭!」
 疲れのせいか甘いコースに入って打たれたボールが、蘭の右ひじを直撃した!
 私は思わずタイムをかける。
「蘭、大丈夫!?」
「あぁ、ちょっと当たっただけだ……痛っ」
 ボールが当たった場所が青く腫れている。
「打撲だな。霧矢ハニー、保健室へ連れて行ってやれ」
「はい、わかりました」

「うーん、これ以上投げない方がいいわね。しばらく安静にしておくこと」
 保健室の先生が湿布を巻きながら言う。
「そんな。蘭は今度ピッチャーをしなくちゃいけないんです」
「そう言われてもねぇ」
 私たちが手をこまねいていると、後ろで様子を見ていたジョニー先生が口を開いた。
「紫吹ハニー、しばらく湯治してみたらどうだ」
「湯治?」
「ああ。温泉に浸かれば、心も体も休まって、回復も早まるだろう」
「なるほど……温泉旅館のことを知れば、オーディションにも有利というわけですね」

「すみません、ジョニー先生。車出してもらっちゃって」
 私たちはジョニー先生と車で鬼怒川温泉へ向かった。
 学園からだったら、お昼までには着けるみたい。
「いいんだ。霧矢ハニーは、温泉旅館へ行くのは初めてか?」
「ええ、そうなんです。小学校の修学旅行も、ホテルでしたし」
「温泉はいいぞ。肌がすべすべになるし、なんといっても食事がいい! 新鮮な刺身が食えるし、鹿の肉なんかも食べさせてくれるところがあるぞ」
「へぇ、先生って意外と温泉好きなんですね」
 蘭が身を乗り出して聞く。やっぱり蘭は温泉とか好きみたい。
「ああ! 学園マザーも休みの時は、一緒に一泊二日で」
 と、言いかけたところでジョニー先生が咳払いをした。
「……今のは聞かなかったことにしてくれ」
「ふふ。もちろんです♪」

「えっ!? 温泉に入れないんですか?」
「遠いところまで来てくれたのにごめんなさいね」
 どうやらお湯を出すパイプが壊れてしまって、温泉に入れないみたい。
 どうしよう。せっかくやって来たのに。
「仕方ない。食事だけでも下調べにはなるだろう」
「蘭……」
「あっ、でも、野天湯でしたらありますよ」
「野天湯?」
「ええ。この山を越えたところに、温泉が湧き出ているところがあるんです。ちょっと歩きますけど、せっかくですから行ってみてはどうですか」
「ありがとうございます!」

 というわけで私たちは、山道を歩いて国の天然記念物である『湯沢噴泉塔』へ向かうことに。
 装備もばっちり整えて、いざ、野天湯へ!
「アイ、カツ、アイ、カツ」
「結構険しいところだな……」
 マップルの『山と高原地図』によれば、広河原の湯から湯沢噴泉塔が登山道として記載されずに、「広河原の湯から行くことができるが渓谷歩きで上級者向け」となっている。
 普段からジョギングやダンス体は鍛えてるけど、足元が不安定な場所で歩くのはけっこう大変。
「あとどれくらいかかるんだ?」
「えーと、二時間から三時間くらい?」
「そうか。暗くなる前に帰らないとな」
「そう思って、じゃーん! ヘッドライトを持ってきました♪」
「あおいは本当にこういうの好きだな……」
 森の中を歩くのは気持ちがいい。空気が澄んでいるし、吹き抜ける風が爽やか。
 チュチュチュと鳴く小鳥たちの声を聴きながら、パキリパキリと小枝を踏んで歩く。
 にじんだ汗が、心地よく乾いていく。

 噴泉塔までには、広河原と呼ばれる源泉がある。
 そこへ近づいていくにつれて、今までとは打って変わって川の音が聞こえる渓谷になっていく。
「地図によれば、この川を越える必要があるんだけど……」
「橋が見当たらないな」
 最近の豪雨で、橋が流されてしまったみたい。
「仕方ない。流れは速くないみたいだし、ズボンの裾をまくって渡るぞ」
「うん! アイ、カツ、アイ、カツ……うひー、冷たい♪」
「滑らないように気をつけろよ。っていうか、これ、アイカツか?」

 しばらく歩いて行くと、朽ちた木が登山道を塞いでいた。
「蘭、どうする? くぐるか、越えるか」
「私はくぐる」
 蘭が身をかがめて、木の下をくぐる。
「そっか。じゃあ私は越える」
 私は足を上げて、木を乗り越えた。
「なぁ、あおい」
「ん?」
「こんな時、いちごならどっちを選んでたと思う?」
「そうだなぁ……『パッキーンって、割っちゃえばいいんだよ!』とか言いながら、斧で一刀両断にしてたかも」
「ははは。ありえるな」

 広河原に着いた。
 源泉はコンクリートのますで囲われていて、そこから川べりへちょろちょろと流れ出た温泉が、誰かが石組みとブルーシートで作った小さな浴槽に溜まっている。
「それじゃあ入りますか♪」
「えっ、噴泉塔はまだなんだろ、もう入っちゃうのか」
「うん! 女将さんからもらったお弁当もあるし、ここらで休憩にしましょ」
「そうだな」
 泉質は硫化水素型。手元のpH計によれば、弱酸性といったところ。
 源泉の温度は五十度くらいだけど、浴槽は四十度弱のぬるめのお湯。
 登山で疲れた体にはちょうどいい感じ。
「あおい」
「うん」
「気持ちがいいな」
「そうだね……♪」
 しっとりとした海苔に包まれた鮭おにぎりと、地元の野菜で作られたらしいお新香がとてもおいしい。
 ゆっくりと空を流れる雲を見ながら温泉に浸かっていると、時を忘れそうになるけど、目的地はまだまだ先。がんばらなくっちゃ!

 広河原から噴泉塔までは残り一時間ほど。
 途中の橋も川に流されてたり、滑り落ちたら大けがをしそうな崖があったり……。
 でもなんとか最後の力を振り絞って、奥鬼怒温泉の湯沢噴泉塔へ到着!
「ついたー! お疲れさま!」
「お疲れ。あそこから温泉が湧き出ているんだな」
 炭酸カルシウムを豊富に含んだお湯が、噴泉塔と呼ばれる三角すい形の塔を形成している。
 そこから湧き出るお湯は熱くてとても触れられないけど、流れ出たお湯は近くで川と合流して、ちょうどいい温度になっているというわけ。
「蘭さん蘭さん! それじゃあ入っちゃいましょうか♪」
 持ってきたタオルを巻いて、早速入浴。
「はぁ~♪」
「温泉って、やっぱりいいよな。私の肘もすぐに治りそうだ」
 滝の音を聴きながら入る温泉は、格別です♪
「あおい」
「なあに」
「私、温泉になりたい」
「えっ?」
「いや、温泉ってさ、温かくて、ほっとするだろ。私にはいちごやあおいみたいなかわいさはないけど、応援してくれるみんなの心を温められるような、そんなアイドルになれたらな、って」
「蘭……!」
 私はなんだか感極まってしまって、蘭に抱き着いた。
「わっ! こらっ、抱きつくな! ……もおっ♪」


「あっと一人! あっと一人!」
 九回表。三対二、ツーアウト三塁、カウントノースリーのピンチ。
 マウンド上の蘭は、追い込まれていた。
 監督として参加していた私は、秘密兵器を投入すべく、タイムをかけた。
「タイム!」
「はぁっ、はぁっ……あおい」
「蘭、目を閉じて上を向いて」
「え? こ、こうか」
 言われた通りに蘭が目を閉じる。
 私はバッグからタオルを取り出し、蘭の顔へ乗せた。
「あ、温泉のにおいだ……♪」
「ふふふ、正解♪ 蘭、落ち着いて。蘭ならきっとできるわ。力を抜いて、思った通りに投げればきっと大丈夫」
「あおい……」
 温泉のお湯を含ませた濡れタオルで、蘭もちょっとリラックスできたみたい。
 肩の力が抜けて、笑顔も出てきた。
「試合が終わったら、また温泉入ろうね」
「そうだな。今度はいちごも呼ぼう」
 プレイ再開。
 ゆっくりと振りかぶり、体をひねりながら、大きく足をあげる。ムチのようにしなる腕から、矢のようにボールが放たれる。
「ストライク!」
 内角低めに入った。バッターは動けない。
 カウントワンスリー。
 蘭はもう一度振りかぶり、ボールを投げる。
「ストライク、ツー!」
 バットが空を切る。
 三対二、カウントツースリー、ツーアウト三塁。
 次の一球で、すべてが決まる。
「蘭……」
 祈るように手を合わせ、目を閉じる……、なんてことはできない。
 最後まで諦めずに、このチームを勝利へ導くんだ。
「蘭!」
 蘭とキャッチャーにサインを送る。
 一瞬首を横に振りかけた蘭だったけど、うなずいて、モーションに入る。
 大きく上げられた足が、マウンドの前に着地し、外角低めへボールが放たれる。
 その直後、蘭がバッターの目の前へ走る。
「ピッチャー!」
 狙い通り。ボコッ、と鈍い音を立ててバットにぶつかったボールは、蘭のグローブへと吸い込まれていく。
「ファースト!!」
 蘭がぎゅっと身を翻し、そのままファーストへ送球する。
「アウト! ゲームセット!」
「わあああ!!」
 試合終了。観客席から歓声が上がり、選手たち、もといアイドルたちがマウンドへと駆け寄っていく。
「やったね、蘭さん!」
「私たち、合格だよ!」
「ああ、ありがとう! みんなのおかげだ!」
「蘭、おめでとう」
「あおい!」
 合格を祝う号砲が空に放たれ、三筋の雲が、秋の空へ消えていった。