杉流馬締と宇和島拓哉のTwitter

杉流馬締が官能小説を、宇和島拓哉がラノベやノベライズを書きます。

アイカツ!勝手にノベライズ 第1話『私がアイドルになっても?』

アイカツ!、始まりますっ!
フフッヒ♪

☆☆☆
「ハイパーメガハンバーグ弁当ひとつ!」
「はーい、メガハンいっちょ♪」
 ママ自慢の大きなハンバーグが、ジューと音を立ててフライパンで焼かれていく。その後ろでらいちがトマトを、私がキャベツを切ってお手伝いをする。キャベツの千切りは難しいけど、リズムよくトントントン♪ と切るのがコツなんだ。
「いちご、ご飯お願い」
「はい!」
 私の名前は星宮いちご! ごくごく普通の中学一年生。おうちでママがお弁当屋さんをやってるから、こうして私と弟のらいちで一緒にお手伝いをしてるんだ。今はいつも来てくれるお兄さんのお弁当を作ってるところ。
 お弁当の箱に、たっぷりご飯を敷き詰める。でもぎゅっぎゅっ、と押し固めたらご飯が硬くなっちゃうから、おしゃもじを軽く持って、ふわっとご飯を乗せていくんだ。
 ご飯を乗せたら、そこにあつあつのハンバーグを乗せて、周りにブロッコリーやウインナーを飾る。そこにケチャップをかければ……モヒカンと唇、それに大きなおめめがうりふたつの、お客さんそっくりなお弁当が完成!

「お待たせしました。いつもありがとうございます♪」
「ども」
「ありがとうございます!」
 にこにこ笑顔でお客さんを送り出す。隣のらいちは似てたでしょ、今の! と得意そうにしてる。かなりね、と言って二人で笑い合う。
「さぁ、仕込みしちゃおう!」
 そうして野菜の下ごしらえをしたり、スープをぐつぐつ煮たり。お手伝いはちょっと大変だけど、おいしいお弁当が作れた時は、本当にうれしいんだ!
 でも、この時の私は想像していなかった。まさか私が、キャベツを運んでいる私が、スープをかき混ぜている私が、アイドルになるだなんて!

☆☆☆
 夕方。水曜日のこの時間は、お店がちょっと早く閉まるんだ。だから私も念入りにお掃除をして、明日もおいしいお弁当が作れるように準備するの。
「よしっ。もう大丈夫よ、いちご。あとは私がやるから」
「うん……もうちょっと!」
「いつも手伝ってくれてありがとうね。でもいちご、うちのことばっかりじゃなくて、いつか自分のやりたいことを見つけてね」
「えっ? なに、急に」
 お掃除に夢中だったけど、ママが急に改まって話しだしたからびっくりしちゃった。なんだろう。
「ママは昔からお弁当屋さんやりたかったの。だからいちごにも、何か夢を見つけてほしいな、って」
「私の夢? なにかな……?」
 ほっぺに人差し指を当てて、うーん、と考えてみる。夢? 私の夢? うーん……あっ!
「私の夢って、お弁当屋さんかも!」
「えっ」
「ママ、毎日楽しそうだし、私も楽しいし! 大人になっても、一緒にお弁当屋さんするのが夢かな」
 ママは最初びっくりした顔をしてたけど、今はいつもの笑顔になった。
「ふふっ。ならママもまだまだ頑張らなきゃ!」
「うん!」
 よかった! これからもお手伝い頑張らなくちゃ!
 
☆☆☆
「らいち、ただいま!」
「うわわわわ! お、おかえり」
 部屋に入ったら、イスに座ってたらいちがびっくりして、さっきまで見てたなにかを隠して焦ってる。なんだろう?
「お姉ちゃんお店手伝ってるんじゃなかったの……?」
 右に左に右に左に、私が覗きこもうとすると、らいちが体を傾けて、なにかを隠しながら苦笑い。うーん、気になるなぁ……えいっ!
「うわっ! ……あ~!」
「わっ! ごめんね!」
 ジャンプして近づいてきた私に、らいちがびっくりしてコップのジュースを机にこぼしちゃった。ごめん! すぐティッシュで拭かなきゃ……って、らいちが見てたのって、神崎美月のブロマイド?
「これって、神崎美月?」
「いいでしょ、別に」
「いいけど……好きなの?」
「いいでしょ別に!」
「いいけど……こぼしちゃったのに?」
「いいでしょ別に!」
「いいの?」
「んんぅ~、よくなぁ~い!! はぁ……」
 
 せっかく集めたのに……って、らいちがうなだれちゃった。
「らいち、アイドル好きだったんだ。知らなかった」
「ただのアイドルじゃないよ、神崎美月はトップアイドルだもん! ライブにだって行きたいけどさ、チケット、全然ないんだって」
 らいち、アイドルっていうか、神崎美月がそんなに好きだったんだ。ごめんね。うぅ~ん、このままじゃかわいそう……そうだ!
「なんとかならないか、明日聞いてみるよ。あおいちゃん、アイドル詳しいから!」
 
☆☆☆
 数学の授業おわり! そうだ、あおいにアイドルのこと聞いてみなくちゃ。
「あっ、そういえばあおい」
「えっ?」
「うちの弟が、アイドルのライブに行きたいって言ってるんだけどさ」
「穏やかじゃないわね。いちごからアイドルの話が出るなんて」
「うん。私って言うより、弟のことなんだけどね。昨日私が、らいちの持ってた神崎美月のブロマイドにジュースこぼしちゃって」
 と、言いかけたとき、あおいが勢いよくイスから立ち上がった!
「行きましょう! 力になるわ!」
 いつもはクールなあおいって、アイドルのことになるとこんなに熱くなるんだ……。
 
☆☆☆
「話は聞かせてもらったわ!」
「……誰?」
 夕方。いきなり部屋に現れたあおいに、らいちがびっくりしてる。
「私の親友、霧矢あおいちゃん。アイドルがすっごく好きなんだよ」
「好きというより、もはや研究対象ね。そしてこれ! 神崎美月ちゃんの切り抜き。私の布教用のコレクションを少しあげるわ。あとポスターも!」
 あおいがアルバムやポスターがぎっしり詰まった紙袋をらいちへ手渡す。それを見たらいちは、思わず大きな声を上げた。
「うわぁぁ~……! 美月ちゃんいっぱい! ありがとう!」
 アイドル好き同士、通じ合うものがあるのかな。二人とも、すっごく嬉しそう。
「あのね。らいち、神崎美月のライブに行きたいんだって。でも、ライブならテレビとかでも観られると思うんだけど」
「いやいやいや!」
 あおいとらいちが声を揃える。
「ライブは生じゃないと。まだ観たことないけど……」
 そうなんだ。私観たことないから分からなかった。
「弟くんの言うとおり、ライブは生が基本」
「ですよね、姐さん!」
「君の姉さんはいちご」
「クール!」
「でも、神崎美月様のライブのチケットは、まったくもって手に入らない」
 ですよね……と、うなだれるらいち。でも、あおいが続けてこう言った。
「そこで、耳寄りな情報があるの」
 
「どぅえぇぇ~~!? ライブ観られるの!?」
「ふふーん♪」
 なんで? なんで? と、家中に響くくらい、らいちがはしゃいでる。でも、確かになんでだろう?
「チケットをもらえるツテがないか探してみたの」
「うんうん!」
「そうしたら、パパのいとこの娘のはとこの知り合いが、同窓会で数十年ぶりに再会した人の、息子が昔入っていた野球チームのマネージャーのママの弟が、旅行先のコートジボワールですれ違ったフランス人旅行者を、日本に来た時に面倒見た浅草に住んでるおばあちゃんの姪っ子のパパが放送局で働いていたおかげで、ライブチケットをもらえることになった! それも、タダで3枚!」
「うぅ~……本当!?」
「ということで、一緒に行きましょう! 美月様のライブへ!」
「お~!」
 それにしても、あおいったらすごく一生懸命探してくれたんだね。
 
☆☆☆
「お姉ちゃん、いよいよ明日だね。美月様のライブ!」
「うん」
 夜。二段ベッドの上で寝ているらいちが、興奮したようすで話し続ける。
「絶対すごいんだよ……ドキドキするね」
「うん。っていうか、もう寝よう?」
「無理!」
 ギシッと上のベッドがきしんで、急に静かになった。どうしたのかな、とはしごを登ってようすを見てみると
「ちょっ、なにしてんの!?」
 らいちがパジャマのままリュックを背負って、神崎美月のポスターの前で正座していた。らいちったら、もう。
「だって、ドキドキして眠れないし、起きられなかったら大変だし……」
「でも寝ないと。ね?」
 私はらいちの頭を撫でてあげた。それで少し落ち着いたのか、うん、と言って布団へ入っていった。よしよし。寝不足のままライブへ行ったって、楽しくないだろうしね。
 でも、アイドルって、眠れなくなっちゃうほどすごいのかな?
 
☆☆☆
「うわ~! すごーい! 会場おっきーい!」
「急ぎましょう。もうすぐ開演よ」
 神崎美月のライブ当日。人がたくさんいるし、物販や展示もあって、まるでお祭りみたい! でもでもあおいの言うとおり、開演まであと10分ちょっとしかないから、急がなくちゃ!
 
「こちらでチケットをお出しください」
「どうぞ。楽しんでください!」
 チケットを渡すと、半分になったヘッドフォンにアンテナをつけたような、不思議なものを係の人が手渡してくれた。なんだろう、これ。
「そのアンテナを頭につけて、観客の興奮度を測るの」
「興奮度?」
「ライブを観れば分かるわ。さぁ、私たちの席はあっちよ」
 観客席への通路を抜けると、観客で埋め尽くされた広いグラウンドと、ぽっかり空いた天井の穴から、グラウンドに負けないくらい大きくてきれいな夕焼けの空が見える、神崎美月のライブ会場がそこにはあった!
 その大きさに思わず見とれていると、神崎美月の曲のインストが流れだして、みんなが口々に、そろそろ始まるね! と話し出した。
「行こう! 早く!」
 と、らいちに手を引かれて席についた瞬間、オレンジ色の空に神崎美月のライブロゴが大きく映って、さらに次の瞬間、ライブ会場全体がきらきらとしたバブルや星々が浮かぶ、紫色をした宇宙みたいな空間に私たちは包まれた! 
 美月様ーーッ! 美月ちゃぁああん! と叫ぶ観客の興奮が最高に高まると、ステージの中央から、神崎美月が不思議な光から歩き出してきた! すごい……これがアイカツライブなんだ!
 
 
《強気に Move ハートに Kiss このまま未来も変えれそう 夢みる自分に恋したい だってわたしがわたしのヒロイン》
《ドキドキしてる とまらない 明日へ Move on now! 恋してる》

 歌いだしさえ待ちきれない観客の手拍子に合わせて、ステージの上の神崎美月が微笑みを振りまく。

《急成長するわたし、ちゃんと見ていて 振り向かせたい トキメキのサプライズ
 
 軽やかで繊細なダンスが、彼女の手足をまるで蝶のようにひらつかせるたび、その軌跡から黄金に輝く薔薇のような、ダイヤにも見えるきらめきが宙を舞う。

《気まぐれじゃない あついオモイはじまってるの 近づきたいよ トクベツな女の子になろう》

――神崎、美月。
 
《ドキドキしてる 運命に片思い とまらない わたしだけのストーリー》
《いつだって あこがれを現実にできるのは 信じるチカラ》
 
《キラキラしてる 輝きに飛び込もう》
 
――神崎、美月……!
 
《さぁ、来るわよ!》
 
 彼女が両手を広げて飛び立とうとしたとき、私たちの目には神崎美月と彼女を包む美しい空間しか映らなくなった! ううん、例え話なんかじゃなくて、あの瞬間は本当にそう見えたんだ。

《手に入れて なりたいわたしがいる 正直に はしゃぐココロで追い越していくよ 駈け出して今》

 紫色の雲でいっぱいの宇宙に浮かぶきれいな薔薇の花びらへ、神崎美月が華麗なステップで次々と飛び乗っていく。

「これ、スペシャルアピールだ!」
 
《ドキドキしてる》
《キセキに Wink 見つめて Touch ここから全部がはじまる》

彼女が優しいウインクとキスを私たちへ投げかけると、そこから飛び出した大きな水色のガラスに包まれたスペードのマークが空に広がった。
 
《とまらない》
《感じてつなげてステップ UP もっと感動したいよエブリデイ》
 
 さらに彼女が微笑みながらそれを指さすと、ガラスが弾けて、中から七色の薔薇があしらわれたスペードのステンドグラスがあらわれた。
 
《いつだって》
《強気に Move ハートに Kiss このまま未来も変えれそう》
 
 神崎美月は空へ向かって思い切りジャンプして、そのステンドグラスへ飛び込んだ! するとその破片すべてが、まるで彼女自身から発せられたかのような光を反射して、キラキラと私たちへ降り注いだ……。

《運命を振り向かせたい》
《明日へ Move on now!》
 
 
☆☆☆
「ただいまー!」
 この日のために新しく買ってもらったスニーカーを脱ぎ捨てて、らいちがお母さんの待つリビングへ駆けていった。
「おかえり。どうだった?」
「すっごかった! ね! お姉ちゃ」
 と、らいちがはしゃぎながら後ろを振り向くと、びっくりしたようすで声が止まっちゃった。でも、それもそうかも。だって私、ぽわぽわした顔で、ふらふらしたままソファーに座り込んじゃったんだもん。
「うん。でも、なんか、あんまり覚えてない……」
「えー!? 本当?」
 
 だって、あんなの初めてだったんだもん。何がなんだか、よく分かんないけど、私きっと、今日は眠れない……。
 
 
☆☆☆
「ただいまー。あら、二人揃ってなに? アイドル?」
「うん!」
 らいちと一緒にこの前のライブの映像を観ていると、ママが買い物袋をさげながら帰ってきた。
「一緒に行ったのに、お買い物」
「へいき」
「あのね、すごかったの。美月ちゃん」
「行ってよかったでしょ」
 らいちの言うとおり、美月ちゃんのライブは本当に行ってよかった。さっきから何度もライブの映像を観ているけれど、美月ちゃんがステージでダンスをするたびに、あのドキドキが胸に湧き上がってくるんだ。
「本当に行ってよかった」
「あおい!」
「姐さん!」
「いらっしゃい」
 あおいが突然廊下から入ってきて、ママに軽くあいさつをした。ど、どうやって入ってきたんだろう。
「いちご、耳寄りな情報があるの」
 
☆☆☆
「いちごはこの学校、知らないわよね」
 あおいがどこかの学校のパンフレットを渡してきた。スター、ライト……?
「あっ、スターライト学園!」
「スターライト学園?」
「知らないの!?」
 らいちが目を丸くする。
「だと思ったわ。スターライト学園は日本一のアイドル学校。通う生徒は全員現役のアイドル」
「毎日、アイカツシステムのレッスンとかしてるんだよ」
アイカツシステム……?」
「あぁ~、もう。『芸能人はカードが命』だよぉ!」
「らいち、よく知ってるわね。そう、『芸能人はカードが命』。世の中のアイドルは全員、アイカツカードを使って衣装やステージをセルフ・プロデュースしているの。そのレッスンをしながら、アイドル活動、すなわちアイカツを行うのがスターライト学園」
「美月様も生徒なんだよ」
「ええっ、美月ちゃんも!?」
 らいちがパンフレットのページをめくる。生徒の紹介ページに、美月ちゃんがいた。わぁ、本当だ。
「そう! スターライト学園のトップに君臨しているのが、神崎美月よ」
 あの神崎美月ちゃんが通ってる学校だなんて、スターライト学園、すごいところなのかも。
「で、耳寄りな情報はここから。実は、スターライト学園の編入試験が行われることになったの」
「編入?」
「……私は受ける」
 ええっ!? あおいがスターライト学園に?
「姐さんがアイドルに!? いいかもいいかもー!」
「すごいね、あおい。でも、受かったら学校は?」
「転校することになる」
「だよね。学校、別になっちゃうんだ」
 あおいがアイドルになることは嬉しいけど、別の学校に通うことになるのは、やっぱり寂しい。
 でも、あおいが首を横に振った。
「ううん。いちごも一緒に受けるの」
「えっ、えぇぇ~!?」
「ええええ!? お姉ちゃんが、アイドルに?」
 わ、私がアイドルに……? どど、どうしてだろう……?
「私、分かるの。いちごは『アイドルのにおい』がする!」
 驚いたらいちが、私のにおいをかぐ。においは……しないみたい。
「えぇっ! いきなりそんな!」
「楽しそうだと思わない? 美月ちゃんみたいなアイドルになれたら!」
「それは……」
 そんなこと考えもしなかった。私がアイドルになるだなんて。私が、美月ちゃんみたいにステージの上で歌って、踊って……? でも、確かに美月ちゃんはとても楽しそうにしてた。私まで楽しくなっちゃったんだもん。
「そう、思う」
「なら一緒に受験しよ! 私の付き添いのつもりでいい」
「付き添い? うーん……」
「お姉ちゃん、やってみれば?」
 らいちが試験を勧めてくる。そ、そんな簡単に言われても。うーん。
「アイドルの素質その一! それはなりたいと思うこと」
 なりたいと、思うこと。
「やるだけやろう。持ち替えるのよ、おしゃもじをマイクに!」
 
☆☆☆
 夜ごはんの時間。
 おしゃもじを、マイクに。うーん、あおいに言われたこと、まだ飲み込めてない。今私が握ってるこのおしゃもじを、ううーん……。
「いっただきまーす!」
 アイドルの素質……アイドルのにおい……。
「ん? どうしたの、いちご」
「お姉ちゃんはおしゃもじをマイクにね!」
「いいの! ……いただきます」
 私、ぼうっとしちゃってた。
 
☆☆☆
 美月ちゃんみたいなアイドル、なれたら楽しそうだとは思うけど。
『大人になっても、一緒にお弁当屋さんするのが夢かな!』
 この前お母さんと話したことを思い出してみる。
『でもいちご、うちのことばっかりじゃなくて、いつか自分のやりたいことを見つけてね』
 自分の、やりたいこと。私の、やりたいこと。
「いちご」
「あっ、ママ」
 夜、私の机で美月ちゃんの切り抜きアルバムを眺めながら考えていたら、ママが部屋に入ってきた。
「やりたいならやってみなさい」
「えっ、らいちから聞いたの?」
「うん。この子、神崎美月ね。いい顔してるじゃない」
「ママもそう思う?」
「ええ。持ち替えなさい、おしゃもじをマイクに」
 その時なんだか、ご飯をよそうように、ふわっと背中を押された気がした。
 
☆☆☆
「そうと決まれば今日から特訓!」
「うん! やるからにはやる!」
「おー!」
 
 私は夢の様な世界を見て、夢を見つけたのかもしれない。
 ストレッチをして、神社の階段を駆け上って、公園でダンス。鏡の前では笑顔の練習。あおいに芸能情報を教えてもらったり、一緒にカラオケで何度も歌ったり。
 どれも大変だったけど、なんだか少し、アイドルに近づけた気がする。私もなれるのかな、美月ちゃんみたいなアイドルに!
 
☆☆☆
 そして、スターライト学園編入試験当日。
「これは……」
 私は、玄関の外まで伸びる長い長い列にびっくり。
「今回の受験者は推定千人。一人も受からないかもしれない狭き門」
「うぅ。でも、やるしかないね!」
「ええ!」
 
 最初の試験は学科。アイドルの基本情報? 音楽の細かいジャンル? っていうか、数学!? うぅ、あおいにしっかり教えてもらったはずだけど……。
 
「あなたは、どうしてこの学校を志望したのですか」
「私は幼い頃からダンスを習っていて、自然と芸能の道を志すようになりました」
 次の試験は面接。隣の子がすらすらと志望動機や得意なことを話せてるところを見たら、ちょっと緊張しちゃった……。
 
「はぁ。やっぱりみんなすごいね」
 試験が2つ終わって、少し休憩。学科も面接も、ぜんぜんダメだった。
「自信を持って、いちご。言ったでしょう。あなたにはアイドルのにおいがする、って」
「それ、どういうこと?」
「あなたはアイドルに向いてる。私には分かるの」
「そうなのかなぁ」
「とにかく、次はライブオーディションよ。最後まで頑張ろう!」
「うん!」
 そうだ、やるからにはやる。最後まで頑張らなくっちゃ。
 
☆☆☆
 私の順番。大きなドアを開けて、ライブオーディションの部屋へ入る。大きな部屋の中央には、アイカツカードが乗せられたテーブルがある。私がそのテーブルへ歩いて行くと、どこからともなく声がした。
「これより、入学オーディションを始めます。アイカツカードを3枚選んで、自らの衣装をコーディネートし、ステージに上ってください」
「はい!」
 少し迷ったけど、私は直感を信じた。
「わぁ……!」
 もう一枚ドアを開けると、床には赤いカーペットが敷かれていて、その先にはクラウンのようなデザインの『アイカツシステム』があった。アイカツの基本的な知識としてあおいに教えてもらったけど、本当にこういう形なんだ。かわいい!
 アイカツシステム、正確に言うとアイカツゲートには、アイカツカードをはめ込んでスキャンするスロットがある。こんなにかわいいアイカツシステムだけど、今からこのカードを使ってライブをやるんだと思ったら、心がきゅっと引き締まった。
 アイカツカードをセットして、キュルルル……と、アイカツシステムがカードを読み込んで、天井にプラネタリウムのような光を映し出す。スロットや脚のような部分が展開し、カーテンが開いて、まるでかぼちゃの馬車のようになって、ゲートは私を迎え入れた。
「ママ、らいち。私、行ってくる!」
 その先に待っていたのは、一瞬のまぶしい光と、宙に浮かんだレースのランウェイ。その上には、私の選んだアイカツカードが並んでいた。トップス、ボトムス、シューズ……カードへ飛び込んでいくと、身体を光が包んで、弾けた光が衣装になった。くるりと回って、ピンクステージコーデの完成! うん、やっぱりこれ、かわいい!
 
「受験ナンバー367、星宮いちご
 もう一つ光のゲートをくぐると、そこはみんなが待ってるステージだった。
「なかなかのコーデね」
 すごい。審査の人も、学園長も、さっきの面接みたいに、みんなみんな私を見ている。なのに……なんだか楽しい。これが、アイカツステージ!
 
《さぁ 行こう 光る 未来へほら 夢を連れて》
《ポケットに一つ勇気握りしめ 走りだしたあの道》
 
 私は踊りだした。歌いだした。
 
《白いシャツ 風なびき 飛べるよどこまでも》
《たまには泣き虫の雲 太陽が笑い飛ばす》
 
 それに合わせて、観客のみんなも盛り上がる。
 楽しくて、力が湧いてきて、身体が勝手に動いた。目の前がパッと明るくなる。
 
「あのオーラは」
「美月、あなたも見に来たのね」
 
《仲間だって 時には ライバル 真剣勝負よ》
 
 楽しい。ここにいたい。ずっと!
 
《アイドル 活動 Go Go Let's Go ゴールに向かって》
 
 その時、光が私の身体をふわっと包んだ。宙に浮かんだ。
 
《走り続ける 君が見える ファイトくれる》
 
 胸から小さなハートを放つと、それが弾けて大きくなって、私を乗せて、ハートの軌跡を残しながら、どこまでも私を運んでいった――。
 
 
「入試でスペシャルアピールを出すなんて、よほどレッスンしたのかしら」
「ふふ。美月、星宮いちごを覚えておきましょう」
「そうですね(面白くなってきた。早く私のところまで登ってきて……)」
 
 
☆☆☆
【編入試験合格者】
048 149 256 271 294
367 405 622 763 810
 
「いちご……810番よね!」
「あおいは763番!」
「うん!」
「やったあ!!」
 
 こうして、私とあおいのアイドル活動、アイカツが幕を開けた。
 
「やれやれ。仲良しでいられるのも今のうちだよ」
 
「ん?」
「あおい、どうしたの?」
「いいえ、なんでもないわ。それよりいちご、合格おめでとう!」
「うん! あおいこそ♪」
 
☆☆☆
「今週のアイカツ格言! メガハンバーグ弁当いっちょー♪」
「いちご、それ格言?」
「じゃあもう一つ。『芸能人はカードが命』」
「やっぱりこれね♪」
 
 
「私たちスターライト学園に入学します! 楽しみだね、あおい♪」
「どんなことがあっても友達だよ、いちご」
「えっ、どういうこと? ――次回、アイカツ!『アイドルがいっぱい!』いつでも熱く、アイドル活動!」